No.021 究極の英国銀器〜ティーアーン



ティーアーンを一言で説明するならば紅茶専用の金属製湯沸かし器。しかし一言では説明出来ない〜その不思議な構造を簡略的ですが〜ご紹介します。画像にご紹介しているティーアーンはロンドン1905年Turner Bradbury が仕上げたオイルバーナー付きのティーアーンです。敢えてオイルバーナー付きと補足する理由に当初はオイルバーナーが外付けされず、お湯を沸騰させる仕組みを内蔵させていたことに始まります。

ティーアーンが普及した時代、しかも英国のスターリングシルバーで作られたティーアーンはブライトカットが普及されるようになった1765年からその後の20年間に最も多く作られました。スタイルもネオ・クラシカルをモチーフにし、左右シンメトリーのハンドルが付く全長20インチ、さらに紅茶用とコーヒー用の大&小ペアセットでのタイプが多かったようです。特徴も注ぎ口のタップに貝殻型のアイボリーを用いられているものが多く、コーヒー用には黒檀をイメージするかのようにアイボリーの上にブラックカラ―で仕上げられました。デザインによっては注ぎ口をドルフィンをモチーフにしたタイプもございますが、緻密にアカンサスの葉を装飾に用いたタイプが資料等にて見かける事が多いです。

ところでオイルバーナーを装着しないティーアーンをどのように温めていたのか?という疑問が生じます。外から眺める限り全く分からない構造ですが、実は蓋を重ねる内蔵部分に落とし蓋のように筒型の容れ物が重なり、その中心部分には棒状の物体が入るような仕組みになっています。つまり内蔵された筒状に暖炉等の火で焼いた鉄の棒を入れ、中に入っている紅茶を沸騰させたのです。

画像の下段にご紹介したティーアーンはシェフィールド1778年DanieHoly&Coがネオクラシカルスタイルに基づき左右シンメトリ―のハンドルから流れる美しいラインを描いています。ティーアーンの象徴的な蓋摘まみには平野の果実〜つまり豊穣の神をイメージしたエイコーンをポイントに紅茶を注ぎ淹れる注ぎ口飾りにはドルフィンを用いています。こちらはオイルバーナーが装着される前のティーアーンの構造です。落とし蓋のように筒型の容れ物が重なり、その中心に鉄の心棒を納める仕組みになっています。

注ぎ口から直接〜紅茶が注がれるティーアーンは効率良くサービスが出来る優れたマシーンのようです。しかしスターリングシルバーに熱い鉄の棒を入れるという事は、当時のスターリングシルバーの耐久性を損ない、且つ破損へとつながります。その為、当時作られたティーアーンはオールドシェフィールドプレート製が多く作られました。1790年以降にはオイルバーナーを装着したティーアーンが作られますが、折しも1840年頃〜エルキントン社が電気メッキの技術を開発される中、スターリングシルバーに代わってシルバープレートのティーアーンが出回ります。そこにおいて丈夫で巨大なサイズにも対応出来るシルバープレートのティーアーンが主流となってきますが・・・・

紅茶の普及率が一般家庭へと広まる中、それにつれ〜もっとコンパクトなティーサービスセットへの要望が多くなります。その結果時代の流れとともにヘビー級のティーアーンの需要は少なくなります。しかし英国銀器工房の技術力も向上したエドワーディアン の頃、再び贅沢なほどスターリングシルバーを用いたネオ・クラシカル様式への憧れと重なり〜ジョージアンのデザインを忠実に復刻した最新技術の結晶たるティーアーンを作り上げる事が可能となります。つまり歴史に語られる古のティーアーンに終わらず、最高の贅を尽くしたティーアーンがオーダーされた証しであったのでしょう。


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